大学ファンドレイジングの理論と実践 第4回
寄付者との関係構築における経営層の役割
日本ファンドレイジング協会大学チャプター共同代表
アカデミックファンドレイジング主宰 久保 優子
本稿の要点を以下にまとめます。
本記事のポイント
- ファンドレイジングの核心は、大学の使命に共感する支援者との長期的な関係構築にある
- 高額寄付は短期的に獲得できるものではなく、分析と対話に基づく継続的な信頼の積み重ねによって成立する
- 卒業生、継続寄付、遺贈など多様な支援のあり方を育てることで、大学の持続的な発展を支える基盤が形成される
前回は、学内の信頼を築き、大学が自らの力を結集するための基盤づくりとして、協働と連携をとり上げた。その土台のうえに成り立つのが、大学の外に広がる寄付者との関係である。大学の使命に共感し未来をともに描く仲間をどのように得ていくのか。今回は、ファンドレイジングの核心となるこの部分と経営層との関わりを考えてみたい。
高額寄付:富裕層へのアプローチ
高額寄付に強い関心を寄せる経営層は多いが、その実現に必要な戦略を持つ大学はまだ少ない。「大口寄付をいくつか獲得できれば年間目標が達成できる」と考えるのは、残念ながら現実的ではない。高額寄付は、単独で狙ったからといって得られるものではなく、長期的な信頼関係の上にしか成立しないから
だ。
寄付とは、自らの資源を大学の使命に託す行為である。そこには、見返りを求めない深い信頼が前提としてある。したがって、高額寄付を期待する相手とは、大学のミッションや価値観を共有しながら、時間をかけて関係を育てていく覚悟が必要だ。成立までに数年を要することも珍しくない。
この過程で欠かせないのが、「プロスペクト・リサーチ」と呼ばれる分析である。寄付履歴や公開情報、社会的活動などを多面的に調査し、関心領域や価値観を把握することで、大学との共通点を見出し、的確なアプローチを設計していく。英語圏の大学では、この分野を専門とするスタッフが配置され、戦略的
な関係構築を支えているが、日本ではまだ仕組み自体が知られていない。その結果、担当職員(ファンドレイザー)の個人的な努力に依存するケースが多い。経営層には、この分析機能の重要性を理解し、データと対話の両輪で進める体制を整えることを期待したい。
富裕層との関係構築には、相手の関心に基づいた個別のプランが欠かせない。ファンドレイザーがポートフォリオとして約100人を受け持つのが適正とされるのも、関係を深めるには時間と丁寧さが必要だからである。富裕層への働きかけは、単純な寄付依頼と同意語ではない。大学がどのような未来を描き、その実現に寄付者がどう関わることができるのかを明確に示し、相手に一歩踏み出してもらうプロセスである。
また、富裕層の中には、まず少額の寄付で大学の姿勢を見極める人もいる。初期段階の支援を軽視せず、感謝と誠実な報告を積み重ねていくことで、信頼が深まり、関係は次の段階へと発展する。富裕層へのアプローチに決まった型はない。まずは相手を知ること、そして自らの意図を正直に伝えること。この双方向のコミュニケーションが出発点である。高額寄付はその先にある信頼の証であり、相互理解の延長線上に実を結ぶものである。
卒業生と継続寄付
卒業生は、大学にとって最も自然で、長く関係を築くことができる支援者である。大学での学びや経験がその後の人生の礎となり、「この大学でよかった」という思いがある限り、母校とのつながりは続いていく。それが寄付に結びつくきっかけとなり、大学との絆を体現し、大学の社会的価値を映す鏡にもなる。
この関係を育てるには、在学中から寄付の存在を知る機会をつくることが大切だ。奨学金や施設整備、研究が多くの支援によって成り立っていることを伝えていく必要がある。学生たちに「自分が支えられて学んでいる」実感が生まれると、将来自分も誰かを支える側に回る、いわゆるPay it forward(恩送り)の精神が育っていく。そうした意識が学風として定着し、大学の持続的な発展の土台が築かれていく。
また、在学生が卒業生に寄付を呼びかける仕組みも効果的である。米国では学生から卒業生への電話が定番だが、日本では、パンフレットやウェブサイトに学生の言葉を掲載するなど、心に響く形での発信が現実的だ。大学が学生と卒業生の〝橋渡し役〞となり、次世代を支える意識を共有できれば、大学コ
ミュニティの絆はより強くなるだろう。
ファンドレイジングではしばしば、「1人からの100万円より、100人からの1万円」と言われる。どちらも同じ100万円だが、前者は翌年ゼロになる可能性があるのに対し、後者は継続や増額が期待できる。支援の数を増やすことは、大学の信頼基盤を厚くする営みであり、経営層にはこの〝数の力〞を戦略的に育てる視点が求められる。
継続寄付は、大学と寄付者の関係を維持し、育てる仕組みである。時間の経過とともに寄付額は積み重なり、大学にとって安定した財源となる。一定額に達した寄付者へ感謝状を贈る、記念日を設けて成果報告を行うなど、寄付者が自らの貢献を実感できる工夫も効果的だ。こうした節目の設計は寄付者の満足を高めるだけでなく、次の支援への動機づけにもつながる。
経営層が、継続寄付の意義を理解し、職員とともに感謝のメッセージを発信し続けること。その積み重ねによって、学内外に「共感でつながる文化」が広がっていく。
遺贈寄付:受け入れ体制を整える
遺贈寄付は、寄付者が人生を振り返り、「大学の未来に思いを託す」行為である。法律や税制が関わるため難解そうに聞こえるが、対応の第一歩は、受け入れ体制を整えることに尽きる。まずは、遺贈寄付に関する情報をまとめたウェブページを設け、寄付の使途、記念の方法、窓口などを明記しておくだけでも
よい。基本方針が示されていれば、寄付者には安心感を、職員には明確な行動指針を与えることができる。
遺贈寄付を検討する人の多くは、すでに大学と何らかの関わりを持っている。特に長年の継続寄付者には、適切なタイミングで遺贈の仕組みを紹介することで、関心を高めてもらうことができるだろう。近年では、終活の一環として遺贈を検討し、詳細な情報を求める人も増えている。定期的に説明会を開催し相談できる場を設けることも効果的である。
一方で、大学が税務や相続に関する専門的な助言を行うことはできない。専門家が見つからない場合は、士業やコンサルタントを紹介できる民間ネットワークと連携する方法もある。いずれの場合も、問い合わせに職員が自信を持って対応できるよう、ガイドラインを整備し、必要に応じて専門家と連携できる環境が必要だ。こうした体制の整備を、経営層には先導してほしい。
ファンドレイジングに着手したばかりの大学では、初めての寄付が遺贈というケースも想定される。その場合も対応の基本は同じである。寄付者の意向を正確に受け止め、丁寧に対応する姿勢を職員全体で共有しておきたい。
遺贈寄付は、寄付者にとって人生の集大成に関わる重要な決断であり、大学にとっては思いを未来へ受け継ぐ尊い機会である。この循環を育てることが、大学における遺贈寄付の本質ではないだろうか。
多様な支援者:共感がもたらす広がり
大学を支える人々は、卒業生をはじめ、企業、研究機関、地域社会、大学の理念に共感する個人など、実に多様である。共通しているのは、「大学を通じてよりよい社会をつくりたい」という思いだ。その輪を広げ、コミュニティとしての結びつきを強めるには、大学が社会課題にどう向き合い、どのような価値
を生み出しているかについて、わかりやすく発信することが欠かせない。
経営層が言葉を尽くして伝えること。寄付者の思いに誠実に応えること。その姿勢が共感を育て、次の支援へとつながっていく。これは現場で証明されてきた事実である。
出典:文部科学 教育通信 No.616. 2025年11月24日号(ジアース教育新社)
※本記事は掲載原稿を再掲載したものです。
