大学ファンドレイジングの理論と実践 第3回 

実務担当者との協働と組織内連携

日本ファンドレイジング協会大学チャプター共同代表
アカデミックファンドレイジング主宰  久保 優子


本稿の要点を以下にまとめます。

本記事のポイント

  • ファンドレイジングは、個別の施策ではなく「7つのステップ」に基づく継続的なサイクルとして捉える必要がある
  • 初期段階(棚卸・分析・連携)の質が、その後の実行フェーズの成否を大きく左右する
  • 部門横断的な連携と協働の設計が、大学全体の活動としてファンドレイジングを定着させる鍵となる

前回は、ファンドレイジングの計画立案と実行を進めるための手順として「7つのステップ」に言及した。今回は、その流れを踏まえながら、経営層がどのようにファンドレイザーや関連部署と協働し、組織内の連携を図っていくかを考えてみたい。


7つのステップで回転させる

「7つのステップ」は、①組織の潜在力の棚卸、②既存・潜在寄付者の分析、③組織・個人の準備と関係者との連携、④コミュニケーション方法や寄付メニュー等の整備、⑤ファンドレイジング計画の作成、⑥ファンドレイジングの実施、⑦感謝・報告・評価、で構成される(図)。

もともとは、日本のファンドレイジングを支えてきたNPOのために考案されたメソッドだが、大学向けに再構成されたバージョンが『大学ファンドレイジングの手引き「7つのステップ」に基づく寄付金戦略』(大学チャプター発行)にまとめられている。周年事業のような大型企画から短期のクラウドファン
ディングまで応用できる実践的な枠組みであり、経営層がこの流れを理解しておくことは、職員との協働を格段に進める助けとなる。

この手法は、「7つのステップ」を一つのサイクルとして、①から順に着実に進めることで最大の効果を
発揮するように設計されている。寄付募集を計画する際、ホームページの開設やパンフレットの制作、プレスリリースの配信など、④に当たる広報的なアクションから着手しがちだが、その前の①〜③を経ずに走り出すと、⑦まで到達しても次のサイクルの①に戻れず、成果が一過性に終わる可能性が高い。このサイクルを理解しているかどうか、全体像を把握しているかどうかが、計画の成否を大きく左右する。

職位にかかわらず、ファンドレイジングの担当を任されたら、最初に着手すべきは、自大学の価値を見極めることである。使命や強みを整理し、社会にどのような価値をもたらしているのかを明確にすること。これは、次に続く分析やコミュニケーション、立案・実行の各段階を支える基礎工事にあたる。ここを省略してしまうと、その後の展開が続かない。①での棚卸しを丁寧に行い、②で寄付者を理解して接点を把握し、③で関係者との連携体制を整えることで、ようやく④以降の実践フェーズが見えてくる。順を追って取り組むことが、寄付を受け取る組織の基盤を強化し、ファンドレイジングという活動を、長期的かつ体系的な営みとして定着させる道筋となる。

経営層がどの段階でどのように関わるかは大学の状況によって異なるが、共通しているのは、①の「棚卸」において大学の方向性や重点分野を示し、計画の基調を形づくることが期待されている点である。②の「寄付者分析」では、担当職員(ファンドレイザー)が整理した過去のデータや関係性に基づき、将来の可能性を把握する。③の「関係者との連携」は、異なる部署の機能をつなぐ段階であり、まさに今回のテーマである。④以降は具体的な作業が目に見えやすくなる。これ以降、寄付募集を進める際には、まず趣意書の作成を勧めたい。案件の目的・成果・使途・予算・体制などを一冊にまとめた百科事典のような内部資料を準備しておくと、学外向けの提案書やウェブサイト制作にも活用できる。法人や富裕層など、特定の相手に向けた資料づくりにも有効で、計画の一貫性を保つツールとして重宝する。


横の連携をデザインする

ファンドレイジングは、縦割り組織の中では進めにくい。財務・広報・学務・施設など、複数の部署が関わるため、横の連携をどう設計するかが問われる。たとえば、寄付金の受け入れ処理をどの部署が担うのか、寄付金を原資とした施設整備の際にどの時点から施設部門が関与するのか、使途の異なる寄付金の成果報告を誰が行うのか。こうした仕組みをあらかじめ定めておくのは当然のように思えるが、実際には体制が曖昧なままの大学も少なくない。経営層が現場の実態を理解し、部署横断的な連携の枠組みを整えることは、担当者の心理的負担を軽減し、問題を未然に防ぐことにもつながる。ファンドレイジングを「大学全体の活動」として日常的に意識できるかどうか。その違いが、寄付文化の成熟度に表れる。

協働には、業務の効率を高める以上の力がある。経営層が目標を共有する教職員と対話を重ねることで、「自分の仕事が大学全体の発展に貢献している」という実感が学内に広がる。その変化はやがて、寄付者に伝わる誠実さや信頼感となって返ってくる。協働の成果は数値で測ることは難しいが、大学の空気が変わる瞬間に、その確かな手応えを感じることができるだろう。。


日本の外から学ぶ

国外でも、経営層とファンドレイジング担当者の協働はさまざまな形で模索されている。米国の大学でファンドレイジング戦略を統括するCAO(チーフ・アドバンスメント・オフィサー)は、教育機関のアドバンスメントを支援する国際組織CASEのインタビュー 1 で「学部や部局の期待と、寄付者の関心をどう交差させるかが最大の課題だ」と語っている。寄付を募ることの先に、大学と寄付者が〝共有する願い(shared aspirations)〞を見出すことこそが、ファンドレイジングの核心であり、学内外に信頼の文化を育てるリーダーの役割であるという。

一方、ウガンダのマケレレ大学2では、政府支援が限られる中で教育と研究を持続させるため、学長のリーダーシップのもとファンドレイジングを制度化したことが報告されている。教職員が協働して地域社会に支援を呼びかけ、学内に寄付文化を根づかせた。背景は異なっても、世界の高等教育機関に共通するのは、寄付を通じて未来を描く文化を組織の中に育てようとする姿勢である。こうした取り組みは、歩み始めたばかりの日本の大学にとっても大きな励みになるだろう。


地道な努力の積み重ね

ファンドレイジングの理論は、実務の原則であり、関係者には、共通言語として理解することを期待したい。今回取り上げた協働の視点は、その言語を実践を通じて組織に定着させるものと言えるだろう。経営層には、教職員とともに考え、支援の輪を学内外に広げていく姿勢が求められる。ここでも、「戦略はミッションに基づき、実践は倫理を重んじる」ことを忘れないでほしい。

大学のファンドレイジングを支える力は、協働を積み重ねていく日々の実践から生まれる。地道な努力の繰り返しが、やがて大きな成果へとつながっていく。寄付をしようという決断には、強い動機と深い共感が必要である。支援者との関係は一度きりで終わるものではなく、信頼を重ねながら長く育てていくものだ。とりわけ高額の寄付は、偶然に得られるものではなく、誠実な対話と継続的な努力の積み重ねの先に実を結ぶ。次回は支援者・寄付者との関係構築を述べる予定である。

<参考>
Council for Advancement and Support of Education(CASE), Working Together:Academic Leaders and Their Fundraising Partners, 2023.
Makerere University, Perceived Changing Academic Roles of Deans in Higher Education in Africa, 2020


出典:文部科学 教育通信 No.615. 2025年11月10日号(ジアース教育新社)
※本記事は掲載原稿を再掲載したものです。


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