大学ファンドレイジングの理論と実践 第2回 

戦略的ファンドレイジングの基礎理論

日本ファンドレイジング協会大学チャプター共同代表
アカデミックファンドレイジング主宰  久保 優子


本稿の要点を以下にまとめます。

本記事のポイント

  • ファンドレイジングの理論は、実務の蓄積から共有されてきた原則であり、倫理を基盤とする
  • 計画と実行の枠組みとして、「7つのステップ」がファンドレイジングの基本的な実務の流れを構成する
  • ドナーピラミッドとギフトレンジチャートは、計画の妥当性と現実性を検討するための実務的なツールである

前回は、大学ファンドレイジングを「大学の使命を社会と共有し、ともに未来を形づくる営み」として位置づけ、経営層が方向を示す重要性を確認した。本稿では、戦略を実行するための基礎理論を整理する。

ここでいう理論とは、完成された学術体系ではなく、実務の蓄積から共有されてきた原則群を指す。寄付者との信頼を育て、支援を長期にわたり積み上げていくために、現場で磨かれてきた共通言語である。経営層がこの言語を理解すると、ファンドレイジング計画とその成果の適切な評価が可能になり、協働環境も格段に改善される。

倫理を出発点に置く

大学ファンドレイジングの戦略はミッションに立脚し、実践においては倫理を重んじる。この基本に関しては、前回触れた通りである。今回テーマとしている理論は実践と両輪をなして価値を発揮する。その理論を支えるのは、実践同様、倫理である。

その有用な指針として、日本ファンドレイジング協会がまとめた「寄付者の権利宣言」と「ファンドレイジング行動基準」がある。そこには「寄付者には組織の使命や活動を知る権利がある」「寄付金の使途が明確にされなければならない」といったあるべき姿が明文化されている。

経営層は、これらの存在と意味を確認し、ファンドレイジングに関わる人員に理解を徹底することが望ましい。

手順の枠組み:7つのステップ

ファンドレイジングには、計画を立て実行するための代表的な枠組みがある。それが「7つのステップ」と呼ばれるものである。NPOの実務の中で培われた手法を基に、大学という複雑な組織に適用できるよう工夫されたものである。価値の棚卸しから始まり、寄付者分析や関係構築を経て、計画立案と寄付依頼、さらに感謝と成果報告へと進み、次の協働につなげる一連のサイクルである。

この考え方は、大学チャプターが発行した『大学ファンドレイジングの手引き「7つのステップ」に基づく寄付金戦略』にまとめられている。詳細は次回に譲るが、経営層を含め関係者には、まずこの枠組みの存在を知っておいてほしい。

計画読解ツール:ドナーピラミッドとギフトレンジチャート

実践に使用するファンドレイジングのツールは複数あるが、今回は、計画の妥当性を評価することを念頭に、ドナーピラミッドとギフトレンジチャートを一対として紹介する。

ドナーピラミッドは、裾野の広い潜在・小口寄付から中口、さらに高額・遺贈へと関係の深まりを段階としてピラミッド型に収め、可視化するものである。入口を広げ、次段へ進む橋渡しを意識的に設計し、上段では個別対話で使途や意志を確かめることができる。

ギフトレンジチャートは、目標金額を寄付額の水準×件数の組み合わせで設計する方法である。少数の高額寄付、複数の中口、多数の小口をどう配列すれば合計に到達するかを前もって描くことで、現実性と優先順位が明確になる。国内では「ドナーレンジチャート」と呼ばれることもあるが、ここでは、寄付=ギフトという原義に沿って表記した。

この二つを重ねて眺めると、計画の現実性が立体的に浮かび上がる。ピラミッドの上段の面談は誰が担当するのか、裾野から中段への導線は何で担保するのか、といった運用の要所を問うヒントが得られるからである。

寄付の案件に理論を重ねる

寄付の使途として多くの大学に共通する奨学金は、大学の使命(人材育成・機会保障)と直結しており、成果の手応えが寄付者にも伝わりやすい。

寄付の報告書にはデータに加え、学びの継続、専攻の深化、卒業・進路の実例などを加えたい。寄付者に、若者の人生に伴走した実感を得てもらうためである。入口を広く設けた裾野では、学生の近況をオンラインで発信して関係を温める。中段ではテーマを特定した寄付へ案内し、上段では学長・理事が直接言葉を尽くし、寄付者の関心を確かめながら次の寄付につながる報告をする。この一連の動きが、ピラミッドとチャートを運用に落とした基本形である。

奨学金と並び、施設拡充も大学の将来像を語りやすい領域である。図書館の学習空間化、共創スタジオの整備、学生寮の改修、研究機器の更新など、補助金だけでは実現しにくいところに寄付を充て、教育・研究の質とキャンパス体験を同時に押し上げる。

寄付者に示したいのは完成図に留まらない。強調したいのは、設計の思想と教育にもたらされる効果、学生生活への具体的な影響である。ピラミッド上段の対話では、ネーミング機会や継続的な効果測定・公開の約束が意思決定を後押しすることが多い。ここでも、二つのツールを使うことで、状況把握と対応
が促進される。

計画の骨格を点検する

経営層 —— ここでは、ファンドレイジングや社会連携を所管する責任者であり、英語圏のチーフ・アドバンスメント・オフィサー(CAO)に相当する職位を想定している—— が計画の骨格に目を通す際は、次の観点を押さえたい。

①案件がミッションと中長期計画に基づいているか。②ドナーピラミッド各層の目的と指標が明示され、層間の橋渡し導線が設計されているか。③ギフトレンジチャートの水準と件数の想定が大学の基盤に照らして妥当か。④ピラミッド上段の面談に誰がいつどう関与するか(学長・理事の時間配分を含む)が具体か。⑤寄付者の権利尊重、透明な使途報告、感謝とフィードバックなど、倫理運用が年次のPDCAに組み込まれているか。

ここまで足並みが揃えば、現場への支援ポイントや学内調整の優先順位が自然に見えてくる。

人材育成に投資する

理論とツールを生かすのは人である。英語圏の大学では、CAOが戦略立案から運用、寄付者との関係構築までを担い、経営の意思決定に専門的視点を提供している。日本ではこの役割を担える人材がまだ希少であるため、学内の職員を育成するための長期的な投資が重要になる。体系的な学習機会、現場で
の経験蓄積、公正な評価と権限の付与を組み合わせ、専門性のキャリアパスを設けたい。同時に、外部の専門家は数が限られるものの、キャンペーン設計やインパクト評価など特定の局面で補助的に活用すると立ち上がりが加速し、学内のモチベーションの向上も見込める。さらに、他大学の職員との情報交換・経験共有を行えるネットワークを整備すれば、知見が循環し、孤立が解消され、実践の質が底上げされる。内部育成・外部リソース・大学間ネットワークという三本柱を、経営層が後押しする意義は大きい。

共通言語で語る

本稿では、倫理、手順の枠組み(7つのステップ)、計画読解のツール(ドナーピラミッド/ギフトレンジチャート)、典型案件、そして人材育成という視点を一つの共通言語として束ねて提示した。これは理論の羅列ではなく、経営層と現場が同じ土俵で議論し、同じ方向を見て実行するための最低限の語彙で
ある。

経営層には、計画の成否を判断する責任と同時に、大学の使命を社会と共有する旗振り役として学ぶ姿勢を示すことが求められる。「戦略はミッション、実践は倫理」という原則を要に据え、計画づくり・実行・報告・対話の循環を粘り強く回し続けたい。

<注>
ファンドレイジング行動基準:https://jfra.jp/pdf/koudoukijyun.pdf
寄付者の権利宣言:https://jfra.jp/pdf/sengen.pdf


出典:文部科学 教育通信 No.614. 2025年10月27日号(ジアース教育新社)
※本記事は掲載原稿を再掲載したものです。


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