大学ファンドレイジングの理論と実践 第1回 

大学ファンドレイジングの全体像と経営層の役割

日本ファンドレイジング協会大学チャプター共同代表
アカデミックファンドレイジング主宰  久保 優子


本稿の要点を以下にまとめます。

本記事のポイント

  • ファンドレイジングは、大学のミッションに基づき、社会との関係性を築く営みである
  • 寄付は資金調達の手段にとどまらず、未来創造のプロセスに参加する機会を提供するものである
  • 経営層は「方向性の提示・体制整備・信頼形成」を担い、組織全体をつなぐ役割を果たす

大学のファンドレイジングは、大学固有の使命(ミッション)に沿った取り組みに社会が参加しやすい入口を用意し、集まった寄付金を寄付者との約束通りに活用し、その結果を共有する一連の営み、と考えられる。本稿ではその理解に基づき、大学経営とファンドレイジングの関わりを簡潔に描き、経営層が担う基本的な姿勢を整理してみたい。

環境の変化とファンドレイジング

日本の大学を取り巻く状況の変化は既知の通りである。国立大学は運営費交付金の圧縮に、私立大学は十八歳人口の減少による収入の揺らぎに向き合っている。競争的研究資金は研究の推進力として重要である一方、配分と使途目的が限定されていることから、経営基盤の強化には必ずしもつながらない。こうした前提から、産学連携や社会人教育の拡充等と並び、ファンドレイジングを財源の多様化戦略として据える発想が生まれるのは自然な流れだろう。

ここで鍵になるのは、大学が「どこに・なぜ・どれだけ」資源を投じるのかについて、自らの言葉で語りその意図を社会と共有できるかどうかである。

ファンドレイジングの本質:関係性を育む

ファンドレイジングの中心は関係構築にある。大学の理念や将来像を言葉にし、それに共感する個人や団体と時間をかけて対話を重ねていく。寄付はその関係を具体化する有力な手段であり、寄付者に「未来創造のプロセスに参加している」実感を与えるものでなければならない。必要性の根拠、目指す変化、実行計画、成果の伝え方までの流れを、当初から丁寧に設計しておく必要があるのはこのためである。

ファンドレイジングの歴史が長い英語圏の大学に目を向けると、学長をはじめとする経営層が日常的に寄付者と語り合い、現状やビジョンを共有している。ここから得られる示唆は、経営の中枢にファンドレイジングの理解が息づくほど、組織力を発揮しやすいということだろう。日本の大学にも、この考え方は有効である。

戦略はミッションに基づく

ファンドレイジング戦略は、大学のミッションと中長期計画から導かれるものである。言い換えれば、大学が描く人材像、研究領域、提供価値を明確にし、必要な資源を見える形にすること、となるだろうか。「自分の大学にはどんな価値があるのか」。この質問に答えることが、経営層、教職員、ファンドレイジング担当者(ファンドレイザー)に求められる重要な職能の一つである。そこを起点として、大学のステークホルダーを俯瞰し、価値を高める活動の準備を整えていくことになる。

大学の価値の「棚卸し」ができたら、寄付の使途とその効果、募集方法など、具体的な寄付募集の設計に取り掛かかる。寄付金がどの段階でどう役立っているのか、寄付者にわかりやすくするために、学生支援、研究基盤、施設整備などの使途と、短期・中期・長期の時間軸を並列した見取り図をイメージするとよいだろう。ここで、経営層に期待される役割を次の三つにまとめておきたい。

①方向性の提示:どこに・なぜ・どれだけの寄付を投入するのかについて、未来像とともに自らの言葉で示し、約束を果たすまでの道のりを示す。経過報告や課題など、トップのメッセージに必要な更新を加えて発信し続けることが重要である。

②体制の整備:ファンドレイジング業務の推進には、複数の部門と連動することが必須であるため、学長直轄のデベロップメント/アドバンスメント機能として位置づけることが推奨される。

③信頼の形成:寄付者に謝意と約束を伝える場にトップが立つことで、大学の本気度がストレートに伝わる効果は非常に大きい。

チームプレーと専門性

ファンドレイジングはチームの営みである。職員は、寄付者対応、寄付募集イベントや強化事業(キャンペーン)の企画運営、使途報告、潜在的支援者の分析など、多面的な業務を担っている。経営層には、この専門性を尊重し、意思決定と実務をつなぐ役割を担ってほしい。部局横断の合意形成に必要な情報を整える、成果と学びを全学で共有する、それを次の企画に反映させる。これらに経営層が関わることが、学内の寄付文化醸成に効果を発揮する。

ファンドレイザーの実務は専門的であると同時に地味なものが多い。しかし、そこには大学の信頼が宿っていることを忘れてはならない。問い合わせへの誠実な応対、タイムリーな報告、約束事項の記録と更新。こうしたことの積み重ねが寄付者の安心感につながる。地道な努力は、組織文化の形成にも有効である。縦割りと言われる組織において部署をまたぐ協力関係を築くには、共通の目的と役割分担への理解が不可欠だからだ。ファンドレイザーがプロフェッショナルとして認識されるかどうかは、人材育成への投資に大きく依存する。経営層による判断に委ねられる部分である。

実践は倫理を重んじる

ファンドレイジングの実践において、関連する法規やルールを守ることは最低限の約束でしかなく、すべては倫理に基づくものでなければならない。大学の倫理観は抽象論にとどまらず、メール一通、説明会の一言、報告書の一段落にまで表れる日常の基準である。寄付受け入れ時の適合性の確認、契約・覚書の標準化、報告書形式の共有、問い合わせへの標準返信時間など、寄付に関する方針や運用の仕組みとして整えておくべきことは多い。倫理は実務における出発点であると同時に、迷ったときに立ち返る拠り所でもある。

成果を示し、学び、次へ生かす

寄付によって実現した取り組みやその影響(インパクト)は、当初の目的を超えて、大学のあらゆる分野に波及する。その成果を学外に伝えると同時に、学内の意思決定と連動させる仕組みを持っておくとよい。初期段階では、新しい出会いが継続的に生まれているか、そこから協働する場が生まれているか、の二つを手がかりとして評価していくとよいだろう。

最初の一歩は大きなものである必要はない。経営層と担当者が定期的に課題と学びを共有する、学長・理事が謝意を伝える場をつくる、使途・進捗・インパクトを定期発信するなどは、いずれも低コストで実現でき、継続することで効果を生み出してくれる。成功の規模を問わず、示す→学ぶ→次へ生かす循環が明確になるほど、支援の理由が強化されていくはずだ。

物語のはじまり

大学ファンドレイジングを、編纂中の叢書だとしよう。経営層は編集長、職員は編集部員として、物語を編み上げ刊行していく。寄付者は読者であり、ときに共同著者でもある。この作業は、いま取り組んでいる巻に多様なステークホルダーがどう関わるのかを示すところから始まる。大学という複雑な組織が生み出す価値と持てるリソースを確認し、進捗と成果を定期的に発信し、対話の場を用意する。これらを実行しながら仲間を増やしていく。

完成した巻は堂々と公開しページを開く喜びを共に味わいたい。この喜びを知った人たちは、次の巻の完成を心待ちにしてくれるだろうし、執筆に協力してくれる人も増えるに違いない。細やかな発信と丁寧な応答を重ねるほど共感は広がり、叢書として共に綴る巻が増えていく。編集長はその過程を見渡し、舵を取ることができる。経営層の役割として、これほどふさわしいものはない。


出典:文部科学 教育通信 No.613. 2025年10月13日号(ジアース教育新社)
※本記事は掲載原稿を再掲載したものです。


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