大学ファンドレイジングの理論と実践 第5回
成果を大学経営にどう活かすか
日本ファンドレイジング協会大学チャプター共同代表
アカデミックファンドレイジング主宰 久保 優子
本稿の要点を以下にまとめます。
本記事のポイント
- ファンドレイジングの成果は資金にとどまらず、学内協働や人材育成など、大学の価値を豊かにする多様な変化として現れる
- 成果を大学経営に生かすには、「可視化・共有・物語化」のプロセスを通じて組織全体で捉えることが重要である
- 寄付者との対話は、大学の価値を言語化し、リーダーシップを育む実践的な機会となる
前回は、経営層が寄付者と真摯に向き合い、大学の価値を自らの言葉で伝えることが、大学と社会の信頼関係を築くうえで欠かせないことを確認した。「寄付をする・受ける」という対話は、大学の未来をともに考える関係そのものである。本稿では、その対話の積み重ねから生まれる多様な成果をどのように捉え、大学経営に生かしていけるのかを考えてみたい。
ここで示す内容は、筆者が大学とNPOの双方でファンドレイジングに携わってきた経験に加え、米国研修での学びや、国内外のファンドレイザーとのネットワークを通じて得た実務的な示唆をもとにした提案である。大学と社会の接点に立ってきたファンドレイザーの視点として読んでいただければ幸いである。
成果の還流 —— 可視化・共有・物語化
ファンドレイジングが大学にもたらす成果は、数字だけでは捉えきれない。寄付募集の過程では、学内協働の進展、学生の挑戦や成長、卒業生や地域とのつながりなど、大学の価値を豊かにする多様な変化が生まれている。これらを経営に生かすために重要なのが、「可視化」「共有」「物語化」の三つのプロセスである。
(1)可視化 — 見えるデータにする
まずは、成果を客観的に把握できる形にすることである。寄付件数、継続率、属性別の動向などの基本指標に加え、寄付が関わる取り組みの成果を継続的に把握することで、意思決定に必要な情報が大学全体に蓄積される。
たとえば、給付型奨学金や学生プロジェクト支援制度などは、採択数、活動成果、修了後の進路など、成長を比較的客観的に捉えやすい。これらをインフォグラフィックや短いレポートとして整理すれば、教学マネジメント、広報、産学・地域連携部門との連携も自然に進む。
(2)共有 — 組織全体で理解する
可視化された成果を関係部署で早い段階から共有すると、大学全体の取り組みに転換しやすくなる。広報、財務、企画、IR、学生支援などが寄付の成果を共通の材料として扱うことで、各部門が自部門の取り組みと結びつけて考えられるようになるだろう。
共有が進めば、寄付募集を「特定部署だけの仕事」とみなすのではなく、「大学全体の発展に関わる取り組み」として位置づけるための基盤が形づくられる。その共有は、学内会議、広報誌、SNS、成果紹介イベントなど多様な媒体で可能である。既存の機能にとらわれずリソースを活かすことで、共有の範囲を広げられるだろう。
(3)物語化 — 価値として伝える
ストーリーテリングは、ファンドレイザーに求められる重要な能力である。共有した成果を大学の理念や未来像と結びつけ、寄付のインパクトを一つの物語として再構成することで、データだけでは伝わりにくい価値を際立たせることができる。
寄付者説明会、成果報告会はその能力を発表する代表的な機会である。語り手がファンドレイザーである必要はなく、学部長や事務部門の担当者、学生など多様な立場や視点が加わるほど、大学が大切にしている価値が立体的に伝わる。ファンドレイジング担当者は、こうした語りの準備や文脈づけを支えることで、物語を磨く役割を担う。
「何が変わったのか」「その変化が大学にもたらした価値は何か」という問いを軸に再構成された物語は、寄付の形を具体的に示し、大学が次に取り組むべき事業や支援領域を明確にする。物語化は、寄付者の理解と信頼を深めながら、次の寄付や支援へのつながりを生み出す作業である。
可視化・共有・物語化は重なり合いながらも異なる機能を持つ。これらを一連の流れとして循環させると、成果への実感が学内に浸透し、大学経営の次の判断を支える材料となる。
ファンドレイジングが大学のリーダーを育てる
米国では、学長や学部長、教務担当副学長(プロボスト)など、アドバンストメント部門以外の主要ポジションでも、職務記述書に寄付者対応や渉外業務が明確に位置づけられている。大学のトップや部門責任者が多様なステークホルダーと対話し、大学の価値を社会に伝えることが、組織運営に不可欠と考えられているためである。
最近の採用情報によると、ミズーリ州立大学のプロボストの職務記述書では、教育・研究の最高責任者でありながら、寄付者との関係構築や同窓生との連携など、大学アドバンスメントを推進する役割を担うことが明記されている。また、カリフォルニア大学バークレー校の情報学部では、学部長補佐(アシスタント・ディーン)がファンドレイジング戦略の策定、広報・マーケティング、同窓生との関係構築を担当することが示されている。
こうした例は、ファンドレイジングが特定部門に閉じた業務ではなく、大学全体のリーダーシップが共有すべき基盤機能として認識されていることを示している。学生、教職員、卒業生、地域社会との接点に立つ者が大学の価値を語ること自体が、組織の持続性を支える重要な営みとされているのである。
(1)経営を学ぶ機会を補う
日本では、学長をはじめとするリーダーたちにとって、経営を体系的に学ぶ機会が十分に整っているとは言い難いという指摘がある。優れた研究者が大学を率いることは大きな強みである一方、就任後に求められる役割の幅広さに戸惑うケースも想像される。大学の理念や方向性を言語化し学外に説明する力をどこで磨くのか。これは多くの大学に共通した問いである。
ファンドレイジングは、その〝基礎体力〞を作るものである。寄付者に大学の価値を説明し、事業の意義を整理し、意思決定の背景を言語化する過程では、経営者に求められる認識整理のスキルが鍛えられる。研修や座学では代替しにくいリーダー育成機能と言えるのではないだろうか。
(2)寄付者との対話が視野を広げる
寄付者との対話は、多様な価値観と社会の期待に触れる場である。大学が地域社会からどのように見られているか、どのような役割を果たしてほしいと考えられているのか。こうした意見を直接受け取ることで、大学全体を俯瞰する力が育ち、経営の視座を深めるきっかけとなる。
(3)中間層のリーダー育成にもつながる
学部長、研究科長、事務局の部門長など、ミドル層のリーダーにとっても、寄付者対応は大学を広く見渡す経験となる。学生、卒業生、地域企業など多様な相手との対話から得られる示唆は、部局運営や教育研究の改善にも直結する。縦割り構造が強い日本の大学において、外部との対話は大学全体を見る感覚を育てる貴重な機会であり、リーダーの成長を促す有効な手段と考えてよいだろう。
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寄付を基盤とした対話は、大学に多様な変化をもたらし、可視化・共有・物語化のプロセスを通じて、成果を組織全体で受け止める基盤をつくる。こうした取り組みは、大学の方向性や社会とのつながりを改めて確認する機会となる。
また、寄付者と向き合う経験は、経営層に限らず多くのリーダーの視座を広げ、大学全体を捉える力を育てていく。外部との対話が日常化する中、ファンドレイジングは大学のリーダーシップを内側から強化するOJTの役割を果たし得る。
成果を捉え大学経営に生かしていくこと。ファンドレイジングをそのための仕組みとして位置づけることで、大学は持続的な発展に向けた循環を生み出していけるだろう。次回は、こうした視点を踏まえ、大学ファンドレイジングの今後の展望と課題について考察したい。
出典:文部科学 教育通信 No.617. 2025年12月8日号(ジアース教育新社)
※本記事は掲載原稿を再掲載したものです。
